本日は、楽待コラムのリンクではなく、最近世間を騒がせているスルガ銀行の「かぼちゃの馬車」に関する融資問題について元銀行員としての個人的な見解をコラムに書いていきたいと思います。
事案の概要については以下のリンクが詳しくのっています。
スルガ銀行のリリース内容はこちら
また、上記に関連する私の楽待実践大家コラムの内容は以下のとおりですのでお時間のある方はのぞいてみてください。
「例のシェアハウススキームの破綻の件1」
「例のシェアハウススキームの破綻の件2」
「例のシェアハウススキームの破綻の件3」
「例のシェアハウススキームの破綻の件(おかわり)」
スルガ銀行の融資のスタンス
今回の「かぼちゃの馬車」問題で使われたのは、いわゆるアパートローンという定型化された融資商品になります。この融資商品は、一般的な融資(いわゆるプロパー融資)とは少し融資審査のスタンスが異なります。
一般の融資においては、基本的には企業や不動産収益事業であれば、営業活動から生じる利益を返済原資と考え融資審査を行いますが、アパートローンという商品の場合にはこのような収益性も見るものの、営業以外の収益、すなわちサラリーマンであれば企業からもらっている給与所得も返済原資としてみて審査をします。
スルガ銀行の場合には、良く年収の20倍~30倍までで上限が3億というのがひとつの融資の上限の目線といわれていました。
当然ながらそのような甘い融資では通常の融資よりも貸し倒れ(借金が返済できないこと)のリスクが高まりますが、それを高い金利でカバーするモデルがスルガ銀行のアパートローンの特徴であり、年率4.5%という高い金利での融資を行っていたようです。
「かぼちゃの馬車」というサブリーススキーム
一時期CMなど行われていたようであり、1000棟以上がスルガ銀行を使った融資で建築されたのが「かぼちゃの馬車」というブランドのシェアハウス物件です。金額が土地建物合わせて1億円を超えるような物件が販売されていました。そしてこの物件にはサブリースと呼ばれる年率8%の利回りを保証するスキームが組まれていました。単純計算すると1億円の物件で年率8%だと800万円の家賃収入が得られ、そこから銀行への借り入れ元金と利息を支払うというスキームです。
このスキームには以下のような問題がありそれがすべて顕在化してしましました。
サブリース業者の破綻リスク・・・サブリース業者が破綻した場合には8%の保証がなくなってしまう。
物件の資産性・・・1億円の物件は実は資産価値が5000万円程度しかないようば物件も多かった。
物件の運営の難易度・・・一部屋が10㎡にも満たない狭小シェアハウスであり、シェアハウスのうりであるはずの共用部分もかなり狭く、サブリースなしでの運営がかなりむずかしい。また、かなり近い立地に同じシェアハウスをたくさん建てていたため運営の難易度がさらに高い。
1億円の価格と資産価値の5000万円の差額はまるまる関係する業者の利益となっており、関連する業者はかなり儲けていたようです。
スルガ銀行の対応
スルガ銀行もこうした融資に危険性に社内で気づき、サブリーススキームの融資から一気に手を引いたことにより、サブリース業者が破綻。一気に上記の問題が顕在化してしまいました。
おそらくスルガ銀行も融資から手をひく決断をした時点で、今日のこのような大問題になる可能性は予見していたのではないかと思います。
現在は、外部の弁護士による第三者委員会によって融資1件1件の精査が行われており、8月末にはその結果が公表されるようです。
個別の融資を受けた顧客にはおそらく融資の元本返済の猶予であったり、金利の減免を行っているようであり、しばらくの間は、不動産の売却による返済を前提に、無理のない範囲での家賃の返済を求めるといったことになるのではないかと思っています(スルガ銀行が一括回収することにより、スルガ銀行も融資を受けた顧客も不幸になり誰も得をしないので、生かさず殺さず状態が続くのかなと考えています)。
一部の弁護士が今回の融資を受けた顧客を集め被害者の会をつくり、代物弁済による融資完済(土地建物の所有権をスルガ銀行に渡すことにより融資をチャラにすること)を求めていますが、実現可能性は低く、いたずらに訴訟の費用がかかっていくといったことになるのではなかろうかと思います。
最近の報道
このコラム執筆時点(2018年8月29日)では、スルガ銀行や第三者委員会からの正式なリリースはありませんが、各社の報道では、スルガ銀行の行員による融資審査の書類改ざんへの関与が見つかった旨のニュースがでています。おそらくこのニュースのソースは、スルガ銀行や第三者委員会から漏れたものではなく、スルガ銀行や第三者委員会から報告を受けている「お上」から漏れたものではないかと考えており、報道の信ぴょう性はそれなりにあるのではないかと考えています。
スルガ銀行の株価も第三者委員会の公表を前に大きく動いており、決算発表により大きく値を下げた株価は値をもどしています。
ここ数日の新聞報道により株価はおそらく一旦かなり値を戻すのでないかと思われますが、長期的な今回の事案の収益への影響を考えると長期スパンでの下落リスクは大きいので短期は買い長期は売りといった状況でしょうか。
(SBI証券ウェブサイトのスルガ銀行のチャートを引用)
金融庁の対応
金融庁はスルガ銀行の監督官庁であり、金融庁による検査も行われています。いまだ検査結果および行政処分は下されておらず、おそらく第三者委員会の報告も待ったうえで結論を出すものと思われます。
今回の処分では可能性としては、アパートローンなどの一部融資業務の一時業務停止処分および業務改善命令がでるのではないかと感じています。
スルガ銀行と金融庁による今回の幕引きはすでに進んでいると考えられ、ここ数日で、創業家の岡野会長や古参の社長や役員の退任が報道されており、経営陣の首をとることで事態を収束させようという方向で進んでいるようです。
スルガ銀行は、上場企業ではあるものの100年以上、創業家の岡野家の経営が続いており、資産管理会社保有分を合わせると岡野家は相当数の株式を保有しています。さすがに金融庁は株まで売れとはいわないと思われますが、岡野家の株の行方も少し注目しておくとよいかもしれません。
個人的な見解
今回の「かぼちゃの馬車」問題については、融資の審査体制や融資姿勢に問題があったことは間違いがなく、しかるべき処分をくだされる事案ではあると思います。
しかしながら、リスクをとるかわりに高い金利を得るというスキーム自体はしごく全うなものであり、一時期は模範的な一つのビジネスモデルともてはやされていました。
個人的には一つのビジネスモデルとしては、ありなかたちだと考えており、リスクを取らない昨今の銀行よりはよっぽどまっとうな銀行業を営んでいるようにも感じます。
今回はよろしくない面があり、改善と再発防止を徹底する必要がありますが、ぜひビジネスモデル自体については転換せずに、リスクをとる銀行として頑張っていってもらえたらと感じています。
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